中山道奈良井宿の木曽漆器は、江戸時代より伝わる伝統工芸品だ。日常使いに重宝された漆器は、丈夫で長持ち。数多く産出されたヒノキ材と明治以降に発見された錆土の利用を組み合わせ、独自の技術が伝えられている。なかでも、ヒノキのヘギを使った曲物細工の弁当箱は木曽漆器ならでは。ネット販売でも購入することができる。

中山道の歴史とともに歩む伝統工芸、木曽漆器

信州信濃路の中山道といえば塩の道。塩を運ぶ道であった中山道は京へ上る街道としても知られ、宿場町としての文化が生まれてきた。中山道の塩の終点、塩尻と木曽ではヒノキなどの木材の生産が盛んであり、多くの木工作品が作られてきた。なかでも独自の漆器技術による漆器は、その丈夫さが重宝され、土地の人々だけではなく多くの旅人たちが買い求めていたという。

今回は、歴史街道中山道の宿場町に今も息づく、木曽漆器について説明する。

木曽漆器の歴史と背景

木曽漆器は、中山道にある塩尻地方から木曽地方で生まれ、製造されている漆器である。
1975年2月17日に経済産業省の伝統的工芸品に指定され、漆器製造の中心地である奈良井宿の木曽平沢は、国の重要伝統的建造物群保存地区となっている。現在でも当時の宿場町の様子を残している貴重な地域だ。いたる所に漆器の工房や店が並び、多くの観光客が買い求めている様子がみえる。

木曽漆器が作られ始めた経緯は、今から約600年前にさかのぼる。慶長3年(1598年)、奈良井川の左岸に位置していた道が右岸に付け替えられたことにより、周辺に生活していた人々が道沿いの木曽平沢に移住し、集落「木曽平沢」が形成されたことから始まると考えられている。
ちなみに、右岸に付け替えられた道が「中山道」だ。移住した当時は「吉蘇路」や「木曽路」といわれていたが、慶長7年に徳川幕府により整備され、中山道の一部となった。

中山道に生まれた集落木曽平沢(奈良井村平沢)では、多くの家が漆塗りを行っていたという。この江戸初期のころにはヒノキのヘギ(ヒノキ材を加工してできる薄板)を使った曲物が盛んになり、曲物や木工細工、漆器等で生計を立てていくようになったと伝えられている。

漆器生産が盛んになった理由は、ヒノキの産出が盛んだったことと同時に、夏は涼しく冬は厳しく寒いという木曽地方の気候が、漆を塗る作業環境によいということもあったようだ。

江戸時代中期の元禄年間には、中山道は京都から江戸への主要五街道のひとつとなり、木曽は宿場町として栄えていく。木曽漆器は木曽の工芸品として全国に知られるようになり、その技術や文化は現代にも伝えられている。

丈夫で美しい普段使いの漆器

江戸時代には、漆器工業は藩主や領主の庇護のもと生産されてきた。それゆえに、漆器は蒔絵等が施された贅沢品として使われるのだが、木曽漆器は日用品として使われることが多い。

木曽漆器が日常の漆器として重宝されてきた理由は、その丈夫さにある。奈良井宿を中心とした木曽地域は、良質な柾目材(ヒノキやサワラなど)が多く産出された。樹齢100年を超すヒノキは目がしっかりと詰まり、木材としては品質の優れたものである。この木材加工で出た薄い板(ヘギ)を利用した弁当箱やヒノキ細工の木工品は丈夫で長持ちだと重宝された。これに漆を塗ることで堅牢となり、腐植を避けることができる。虫除けの効果もあったため、食材を入れる器としては最適であったのだ。

木曽漆器が堅牢である理由に、明治初期にこの地域から発見された「錆土(さびつち)」がある。錆土は鉄分を多く含み、下地として使うことでより堅牢で丈夫な漆器を生産できるようになった。
この発見が、木曽漆器が普段使いできる漆器として定着した要因であるといえるだろう。

現在は、先人達が開発した、木目の美しさを生かす塗技術の木曽春慶、模様付けを施す木曽堆朱、丹念な艶出しで鏡面に仕上げる塗分呂色塗の三技法が経済産業省伝統工芸品に指定され、多くの職人に受け継がれている。

弁当箱がおすすめ ネット販売で買える木曽漆器

中山道の奈良井宿に降り立つと、多くの漆器工芸店が連なり、立ち寄る観光客で賑わいを見せている。江戸時代からそのままの家屋の姿は、まるでタイムスリップしたかのようだ。曲物の弁当箱や箸、椀など、毎日の生活で使えるものが多く、気軽に購入することができるだろう。

とはいえ、木曽まで行くには遠すぎるというもの。そんなときはネット販売が便利だ。
木曽漆器は、「木曽くらしの工芸館」のオンラインショップのほか、多くの通信販売サイトでネット販売されている。椀や箸のほかにも、丈夫さを活かした木製郵便受けなどもあり、現代の生活に取り入れるための工夫を垣間見ることができるだろう。

木曽漆器でおすすめなのは、曲物細工の弁当箱だ。木曽ヒノキのヘギで作られ、木曽春慶の技術で塗られた弁当箱は、手入れが簡単で丈夫。美しい木目と塗りは、古来より受け継がれる木曽漆器の職人の腕をみることができる。

また、ちょっとしたイベントにも便利な重箱も人気。塗分呂色塗の技術で鏡面に仕上げた重箱は丈夫で、身を正したくなる美しさが華やかだ。家族や大切な人が集まるおめでたい席にも重宝するだろう。

地方に息づく伝統工芸は、日本の歴史と文化を担ってきた。中山道の宿場町、木曽路の職人たちの技が集結した木曽漆器に、江戸の旅人となって思いを馳せてみてはいかがだろう。

参考: